今回の創造的模倣戦略は、「イノベーションと起業家精神」の中で一番の学びになりましたが、その中でも特に面白いのが、起業家的柔道戦略で、ドラッカーにしては、たいへんユーモラスな名前を付けたものだと思います。
そして、深く思考すれば、世の中で大成功しているビジネスのほとんどが、この戦略を上手く活用していることが分かります。
特に、株式価値が世界でトップになっている、アップルの製品のほとんどは、この戦略によるものであり、既に世の中に出ている製品を再設計したものばかりであり、特にスマートフォーンは、社会を変えてしまうほど、大きな衝撃を与えたのです。
アップルに続いたサムスンも、アップルのスマートフォーンが成功したあと、同じような起業家的柔道戦略で大成功したのですが、今は随分と戦略が崩れてしまい、苦戦しているのです。
起業家的柔道戦略でいつも狙われるは、トップの地位に安住している先駆者なのです。
最近、国内の飲食ビジネスで気付くことは、どこかで繁盛店が出来ると、そこには、そのようなお客さまがいるということが分かり、もっと力の強いライバルに狙われるのです。
そこが、たまたま、立地的に真空地帯であり、そのようなビジネスが成り立つと分かると、規模の大きいライバルが来て、その店の商品力、サービス力等の実力を調べ、自社の実力が上であり、十分勝てると判断すると、即、近隣に出店してくるのです。
しかし、その立地が限定的であり、十分な市場がなく、厳しい場所でありながら成功していて、自社が参入してもメリットがないと分かると、参入して来ないのです。
従って、先駆者であろうと、起業家的柔道戦略を取る場合であれ、自社の強みを磨き続けることを疎かにすることは出来ないのです。
こうしてみると、ビジネスには安心領域は存在せず、安心出来る状態は、一瞬たりともあり得ず、ライバルにこの戦略を取られることを常に用心して、ライバルが成功している自社に対しての起業家的柔道戦略を取るのであれば、どこに隙があるのか、どこを突かれる可能性があるのかを常に意識して、戦略を再構築することが大切なのです。
どんなビジネスでも、ビジネスは、強くなり、成功することが、次の新しいライバルを次々と作っているのです。
強いライバルもあり、弱いライバルもあり、成功度合いが大きいほど、実にさまざまなライバルが登場します。
「丸亀製麺」が日の出の勢いで成功していたころ、全国各地で雨後の竹の子のごとく、同じような店が次つぎと参入して来たのには、呆れるくらいでした。
そして、その頃参入していたライバルたちは、「丸亀製麺」のレベルを凌駕したレベルの店は、ほとんどなかったのです。
はるかに低いレベルでの参入であり、簡単に真似が出来る、店づくり等の形を真似ただけで、セルフのうどん店を開くと儲かりそうだから、やってみようとしている人たちばかりであったのです。
ところが、今は、誰もセルフのうどん店には参入しようとしていないのです。
起業家的柔道戦略を駆使するならば、トップの地位が固まり、安定している時ほど、チャンスなのですが、誰も今は参入をしようとしていないのです。
同時に、この様に戦略を深く学んでいくと、今までの当社に何が足りなかったが明確に分かり、これから何をしなければいけないかもよく分かるのです。
こうして実際のビジネスを見てみると、過去の当社も含め、いかにほとんどの人たちが戦略を学ばずにビジネスを行なっているかが分かります。
既に何十年も前に、ドラッカーはこのようなイノベーションの戦略の体系を構築していたのですが、ほとんどの人たちは学び、活かしていないのです。
学ぶことの方がはるかに時間とエネルギーがかかるのですが、それを単に、少しの投資で解決しようとしているので上手くいかないだけなのです。
少しのお金をかけるよりも、深い学びが必要であり、戦略の理解は欠かせなく、既に、ドラッカーが戦略の体系を構築しているので、それを深く学ぶことだけであるのです。
日々の行動を反省するとすれば、われわれのほとんどの時間は、どうでも良いことに振り回されていて、大切なことに十分な時間が取られていないだけなのです。
学ぶべき、材料はたくさんあるのに、気付いていないだけなのです。
本日も、ドラッカー選書「イノベーションと起業家精神(下)」(ダイアモンド社)に基づき、イノベーションについて、深くドラッカーから学んでいきます。
ぜひ、一緒にイノベーションと起業家精神を磨いていきます。
2起業家的柔道
1947年、ベル研究所がトランジスタを開発し、ラジオやテレビの真空管に代わるものになることは直ちに明らかになり、誰もが知っていたのですが、誰も何もしなかったのです。
当時、アメリカの大手電機メーカーは、トランジスタへの転換を1970年頃に行うという計画を立て、彼らは、それまでトランジスタは使いものにならないと説明したのです。
ところが、国際的にはまだ無名で、専門家の間でさえあまり知られていなかったソニーの社長盛田昭夫が、このトランジスタのことを知り、彼はアメリカへ飛び、ベル研究所からトランジスタのライセンスを総額2万5000ドル(当時の900万円で、当時のソニー(東京通信工業株式会社)にとっては、大金であり、外貨制限のあった頃の日本であったので、許可を取るのがたいへんだった)という驚くべき安値で買い、2年後、ソニーは、重さが真空管ラジオの5分の1以下、値段が3分の1以下という最初のポークブルラジオを世に出し、3年後には、アメリカの低価格ラジオ市場を手に入れ、5年後には世界市場を手に入れたのです。
もちろん、これは予期せぬ成功の拒否と、その利用の古典的な例であり、アメリカの大手電機メーカーは、「われわれの発明」、すなわちRCAやGEなどのリーダー企業の発明ではないという理由で、トランジスタの利用をためらい、プライドが邪魔をした典型的な例で、彼らは当時の技術の粋を集めた高級ラジオを誇りにしすぎていたので、彼らにしてみれば、シリコン・チップのラジオは、下品とまではいわないまでも、低級な代物だったのです。
ドラッカーが使っている、起業家的柔道戦略は次のような特徴を持った戦略なのです。
1.「柔よく剛を制す」という柔道の基本をビジネスに応用する戦略のことで、他社の力を利用して、商品開発や市場開拓をする戦略であり、社会にあふれている商品の多くは、合法的なコピー商品で、書籍で「国家の品格」がヒットすると「~の品格」がたくさん出版されるのですが、この戦略のメリットは成功の後追いですから、リスクはほとんどなく、販売力のある会社や、開発力の弱い中小企業には最適の戦略なのです。
2.成功し、驕り高ぶった大企業の脇の甘さを衝き、すでに安定して確固たる地位に就いていると思い込んでいる、うぬぼれ屋の企業を打ち負かし、自らをその業界のリーダーの地位に就かせることができるとするのが、「起業家的柔道」の技の一つで、産業や市場において、リーダーシップ支配力の獲得を狙いとしたあらゆる戦略の中で、この「アントルプルヌーリアル・ジュードー」こそ、ずば抜けてリスクが少なく、成功の公算が大であり、ドラッカーは現在の優位性の上にあぐらをかいている企業は「常習犯」と同じだ、と厳しいことを言い、変化に対して鋭い感性を磨き、外界の変化を敏感にモニターし、しかも迅速に対処することを重要視しているのです。
3.トップ企業のスキをついて、トップの地位を築こうとする戦略で、トップ企業の自社製品・サービスへのおごりや利益の発生対象、機能などのスキを突き、トップ企業が利益の最大化を目指している場合、製品やサービスへの最適化を行うので、リスクが一番低く、一番成功しやすいと言われる戦略です。
柔道戦略が特に成功する状況が3つあり、
第1は、すでに地位を確立しているトップ企業が予期せぬ成功や失敗を取り上げず、見過ごしたり、無視したりするときであるのです。
第2は、新しい技術が出現し急成長するのですが、新しい技術を市場に導入したものは古典的な独占体として行動し、すなわち地位を利用し、市場のいいとこ取りをし、創業者利益を手にするときであるのです。
第3は、市場や産業が急速に構造変化するときであり、構造変化は、イノベーションの7つの機会のうちの第4の機会「産業構造の変化」を利用するものです。
柔道戦略の攻撃側の成功要因は、柔道戦略の上記で紹介した攻撃されやすい先駆者の悪癖の裏返しです。
◆何回もの成功
問題は、ソニーの成功にあるのではなく、日本のメーカーがこの戦略を何度も使い、そのたびに成功し、アメリカの企業を驚かせてきたことをいかに説明すべきかにあるのです。
日本のメーカーは、この戦略を、テレビ、クォーツ・デジタル時計、プログラマブル電卓で繰り返し、コピー機に参入し、草分けのイノベーターであるゼロックスから市場のかなりの部分を奪ったときも、この戦略を使い、言い換えるならば、日本の企業はアメリカの企業に対し、起業家的柔道によって何度も成功をおさめてきたのです。
しかし、アメリカの企業であるMCIやスプリントもこの戦略を使い、AT&Tの料金体系を利用して長距離通話のかなりの市場を奪い、ROLMもこの戦略によって、構内交換機(PBX)市場のかなりの部分をAT&Tから奪ったのです。
シティバンクも、ドイツでフアミリェンバンクなる消費者銀行を設立し、数年の間に、消費者金融で支配的な地位を得たのです。
ドイツの銀行も、普通の消費者が購買力をもつようになり、上客になりうることは知っていて、彼らも消費者金融に進出し、だが、本心は乗り気ではなかったのです。
とくに、それまで法人客と金持ちの投資家を顧客にしてきた大銀行にとって、一般の消費者は自らの威厳にそぐわない存在で、口座を開きたければ、郵便貯金に行けばよいという姿勢で、広告で何といおうが、ドイツの銀行は、その重々しい支店にやってきた一般の人たちに対し、そっけない態度をかなりあからさまに示したのです。
これが、シティバンクが一般の消費者のニーズに応えるための金融サービスを設計し、利用しやすいファミリェンバンクを設立したときに利用した機会で、シティバンクのファミリェンバンクは、手強いドイツの銀行がドイツ中に支店を張り巡らしていたにもかかわらず、わずか5年の間に、消費者金融で支配的な地位を得たのです。
日本企業、MCI、ROLM、シティバンクなどの新規参入者はすべて、戦略として起業家的柔道を使い、あらゆる起業家戦略、とくに産業や市場において支配的地位の獲得を目指す戦略のうち、起業家的柔道こそ最もリスクが小さく、最も成功しやすい戦略であるのです。
警察は、金庫破りにせよ、こそ泥にせよ、常習犯が同じ手口を使うことを知っている彼らは個性的な痕跡を指紋のように残し、何度逮捕されても変えようとせず、性癖から逃れられないのは、犯罪常習犯だけではなく、誰でもあり、企業や業界も同じであり、何度トップの地位と市場を奪われようとも、性癖は変えられないのです。
アメリカのメーカーは、日本の企業に何度市場を奪われても性癖を変えず、犯罪者は、自らの性癖のゆえに逮捕されたことを認めないので、逮捕の原因となった性癖を直さず、言い訳を探すのです。
自らの性癖によって市場を失った企業も、それを認めないで、ほかの原因を言い訳にし、たとえば、日本企業の成功を低賃金のせいにするのですが、RCAやマグナボックスのように現実を認識している電機メーカーは、アメリカの高賃金と福利厚生費を負担しつつ、日本のメーカーと競争できる価格と品質の製品を生産しているのです。
ドイツの銀行は、シティバンクの成功について、自分たちにはおかすことのできないリスクだったと弁解するのですが、実際には、ファミリェンバンクの貸し倒れは、ドイツの銀行よりも少なく、貸付条件は、ドイツの銀行と同じように厳しく、もちろんドイツの銀行は、このことを知っているのです。
それでもなお、彼らは、自らの失敗とフアミリェンバンクの成功について弁解を続けるのは、きわめて典型的というべきであり、ここにこそ、なぜ起業家的柔道という同じ戦略が何度も成功するかを示すヒントがあるのです。
驕り高ぶることが、ビジネスでは一番危険であり、成功しているときこそが、一番危険な時であるのです。
これは、人間の性であり、マネッジメントには体験が欠かせないのです。
画像は、一昨日、初めて訪問した長女の自宅での私の誕生日パーテイの画像で、今回は、4月に生まれの孫と合同のパーテイだったのです。
昨年生まれた一番下の孫も歩き始め、油断すると何をしでかすか分からない、元気の良さに皆、振り回されていました。
毎年の誕生日で、孫たちの成長を見るにつれ、時間の経過の早さを感じるのです。
今日も最高のパワーで、スーパー・ポジテイブなロッキーです。